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記事0 - earth1(FRaU the earth)

面倒な先輩のさもしい価値観

──『資本論』に出てくる難解そうな用語も、落語に関連させて解説されるので、よく理解できていちいち腑に落ちました。たとえば、「貨幣の物神化」とは、貨幣を神のように崇め奉ること、つまり、古典落語が嫌った金儲け最優先主義のことだとか。

談慶 はい、マルクスが批判した「貨幣の物神化」とは、要は、江戸の町衆がはしたないとか野暮などと呼んだ、「金がすべて」という考え方でしょう。

「三方一両損」や「井戸の茶碗」などの噺では、登場人物が、簡単に自分のものになるお金を受け取ろうとしません。本当は喉から手が出るほどほしいのに、やせ我慢して拒むんです。まさに「貨幣の物神化」を拒否しているわけで、江戸時代は皆、そういう価値観を感覚的に、集合知のように共有していた。で、それを体現する人や行為に「粋だ」「いなせだ」と喝采していたんです。

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今も落語界に入ると、「金が儲かればいい」という考え方に背を向けなければならない時期があります。私も入門して9年半も前座修業をしましたが、その間は金儲けなどまったく考えず、常に「談志に認められること」が最優先でした。談志には「金がほしければよそへ行け」と言われてましたね。修業は厳しかったですが、おかげで「人を地位や収入で評価しない」という価値観が身について現在に至っています。

若い頃は、正反対の価値観を押しつけてくる人に閉口したこともありました。前座から二ツ目に上がってまもない時分の、大学のOB会でのことです。大企業の部長だという面倒臭い先輩が、私が若手落語家だと知って、バカにしたように言いました。

「9年半も前座なんかやってたのか。その間、毎年1000万稼いでいれば1億になってたじゃん」

ああ、そういう勘定をするのか、さもしさが露呈しているなあと思いました。

ただ、言われたときはムカつきましたが、今考えると、あの出来事も本書を書く上での大切な材料のひとつになりましたね。『資本論』を読み直したときに、「なるほど、あの人の考え方がマルクスの言う『貨幣の物神化』だったのか。資本主義ではあれが主流になるんだな」と理解できて、むしろ感謝しているくらいです。

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