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    記事0 - 連載タイトル1(FRaU JAXUARY)

    人間のシステムエラー大全

    ──具体的に、落語と『資本論』の共通する部分とは何でしょうか?

    談慶 まず、両方とも「人間のシステムエラー大全」なのだと思います。

    実は私、大学時代に初めて『資本論』を読みまして、そのときは途中でよくわからなくなってしまったんですが、辛うじて理解できたのは、マルクスは資本主義の不完全さを訴えようとしたということでした。不完全な部分が、強欲な資本家による搾取や失業、恐慌など、資本主義というシステムのエラーとして現れるのではないか、と。その見方は今も変わっていません。

    片や落語界では、私の師匠・立川談志が「落語とは人間の業(ごう)の肯定である」という歴史的な名言を残しています。談志は「酒が人間をダメにするんじゃない。人間はもともとダメなものだということを、酒が教えてくれるんだ」とも語っている。そんな風に、いろいろダメなところを抱え、失敗もする人間がたくさん登場する、まさに膨大なエラーの図鑑と呼べる世界が落語だというわけです。

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    いずれも軸になるのは「人間の愚かさ」でしょう。これを見つめて、経済方面で理論化したのが『資本論』で、生活哲学にまで極めたのが落語なのだと思います。

    ──資本主義社会の行く末を予測した『資本論』に対し、落語がよく描くのは過去である江戸時代のコミュニティと、その点は対照的に見えます。

    談慶 いや、落語って実は、江戸時代から資本主義社会の到来を予感していたと思うんですよ。談志は「落語のテーマは飢えと寒さである」と定義しましたが、江戸っ子たちはまさに飢えと寒さを分かち合いながら、がつがつと金儲けに走る奴や、身の丈以上の金を貯め込む奴を心底バカにして、忌み嫌っていました。落語にはそんな様子が多く描かれます。

    しかし、江戸時代も次第に商業が発達して富裕層が現れ、さらに幕末が近づくと、幕府が崩壊してもおかしくないと考える人も増えたでしょう。金儲けや金持ちを拒絶する江戸っ子の間に、「これからは金儲けに走る商売上手がさらに金持ちになる世の中になっちまう」という予感が広がっていったのではないか。

    実際、明治になって日本は近代資本主義に組み込まれますが、それを見越して、「時代は変わってしまう」という予言と、「でも急ぎすぎやしないか」といった危惧の思いが、古典落語には込められていたと思います。その意味で落語には、来たるべき資本主義への制御装置たらんとした、未来志向の一面もあるんですよ。

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