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2人とも「バカが嫌い」

──共に物事の先を見通す力が抜群だった、と。

談慶 そう、2人とも、予言しちゃう人なんですよ。で、予言する人というのは、現状を維持しようとする勢力にとっては、不安の種でしかない。だから迫害されるんです。

マルクスはヨーロッパ各地で迫害され、転々として、ようやくイギリスの大英博物館で『資本論』を書いた。談志の方は落語協会から迫害されました。やがて門下から志の輔師匠が見事に売れて、談春兄さん、志らく兄さんと落語界のトップ3が出ましたが、その後も高座でよく、「俺の落語会は、世間で受け入れられない頭のいい奴の集まりだ。そういう連中が傷を舐め合ってるんだ」と言ってました(笑)。

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両方とも気難しいし、先が見えるだけあって、「バカが嫌い」という点も同じだったと思います。マルクスは小言好きな親父のようなキャラで、「俺の理論がわからないのか? わからない奴は向こうへ行け」みたいなことを言ってたそうですし、談志も「俺の基準はこうだ、俺の論理はこうだ、理解できなければ俺のところにいなくていい」という感じ。そっくりですね。

ただ、私生活は違っていたと思います。マルクスはメチャクチャな一面があって、お手伝いの女性に手を出して妊娠させ、生まれた子供の面倒を盟友のエンゲルスに見させていた。まあ最低ですよね(笑)。談志はメチャクチャなことも言いましたが、家庭人としては常識的で、家族を大事にしていましたから。

──本書では、いろいろな古典落語の名作と『資本論』の内容がどう重なるのか、現代社会のさまざまなエピソードとも絡めてうまく説明されており、これは落語家の談慶さんならではのユニークな手法です。

談慶 『資本論』にある予言や警鐘という点では、特に「あたま山」という短い落語が、同じように資本主義の未来を暗示していると思いました。ケチな男がさくらんぼの種を、もったいないと食べたところ、頭に桜の木が生えてしまった。近所の人々は喜んでその周りで花見をして騒ぎ、うるさいからと男が木を引っこ抜いたらそこに雨水が溜まって池ができ、今度は釣りの人気スポットになって、男は怒りでやけっぱちに……というバカバカしい噺です。

でも、この落語は、資本主義による環境破壊や人間性の破壊を予言していたのではないか。品種改良のバイオテクノロジーとか、欲深く稼ごうとするレジャー産業や観光業による自然破壊、金儲けシステムの中で鬱になって人が命を絶つケースなどを、江戸時代の作なのに、「あたま山」は見通していると思ったんです。

ナンセンスなSFに見えて、実は「行き過ぎた資本主義が環境を破壊し人間を滅ぼす」というメッセージを秘めた予言的ホラーではなかったか、と。やや牽強付会なところもありますが(笑)、多少の拡大解釈を許してくれるのも、古典落語の大らかさということで。

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